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【高校GIC】高2Liberal Arts 当事者の視点で問い、内側から超克する

高校GIC(Global Innovation Class)の独自科目「Liberal Arts」は、自分たちの置かれた文脈から自由になり、不確かな世界と向き合いながら自己や他者の在り方を問いつづけることを目指しています。そのために、
・世界の見え方を変える。
・そのための「目」を持つ。
・当事者として問い、世界を描く。
という三つの柱をもとに、三学年の学びのストーリーとそれに紐づく具体的なPBL(Project Based Learning)を設計しています。

現在高2の生徒たちは、高1次のLiberal Artsで、自分たちとは異なる「知らない世界」にたくさん出会い、そこで起きている問題について、システム思考を使いながら解決策を見出していく、というPBLを行ってきました。
高校2年生では、そうした「外側からの考察」に加えて、「当事者の視点で問う」ということを重視しています。外側からシステムを観察し、解決策を提案するだけではない視点です。
キーワードは「当事者性」(≠自分ごと化)です。そのシステムのなかに置かれた当事者はどのように感じ、思考するのか。その人自身が、置かれた状況で起きる問題をどう超克してゆける可能性があるのか。そうしたいわば「内側」を見つめる「目」をもつことを目指しています。
今回はそんな高校2年生の授業をご紹介します。

【PBLの流れ】
[1・2コマ目]現象を観察し、背後のシステムを分析する
・グループに分かれ、課題のミュージックビデオを視聴する
(作品概要)会社員の男性がパワハラや孤独で追い詰められていき、事件を起こしてしまう。ラストシーンでは、事件の記事がよく読まれることなくスワイプされるスマホの映像が映る。
・対話型鑑賞(VTS):「どんな出来事が起きている?」「どこからそう思う?」を対話
・その出来事のなかには、どんな「問題」が潜んでいそうか? 対話しながら挙げる
・列挙した「問題」から、自分たちがメインに扱うものを選択する
・「問題」の背後にあるシステム(因果ループ図)を描き出す

[3・4コマ目]共有知を構築し、構造を体系化する
・共有知①:各グループから一人ずつの共有班を作り、それぞれ見出した「問題」とシステムを共有
・共有知②:データや文献を探索し、先行事例や研究の知見を得る
・各グループが描いた「問題」とシステムを統合し、大きな構造の体系を描き出す

         

各グループの知を結集して、大きく複雑な構造の可視化に挑む

生徒たちが描いた構造の体系例

[5・6コマ目]当事者の視点で思考する
・「その世界」を生きる「一人称のある人物」のペルソナを設定する
・アウトプット:以下のプロットを決め、それを表現するメディアを選定し、グループで作品制作
① その人物には、どんな世界が見えているか? その人物は、その世界でどう生きている?どんな問いを抱く?
② その問いに対して、人物は自分の在り方をどのように変えて行くだろうか?いつ、どこで、誰と、何をすれば、その問いを乗り越えられるか?

[まとめレポート]概念化と転移
<概念化>
・この作品が、この形で、いま・ここに存在する意味とはなにか?
・この作品は、何/誰に対して、どんなことを問いかけようとしているのだろうか?
<転移>
この作品とその分析から得た見方を用いて、あなた自身の経験や身の回りの現象、他の作品や現象をひとつ挙げて自由に考察する

このPBLを経て、生徒たちは以下のような思考・創造のプロセスを辿ります。
・自分たちの頭と五感で観察する
・世の中にある先人たちの知や、仲間の見出した知を統合して思考する
・社会システム(鳥の目)+心的システム(虫の目)で考察する
・システムの中に生きる当事者の視点で世界をとらえ、超克する可能性を見出す
・受け手を想定して、伝えるために最適なメディアを選択し、表現する
・このワークから得た概念を、自身の身近な例に演繹して分析する

発表に熱がこもります

生徒たちの作成した成果物は、作品が描き出すのと同型の構造をもった世界を生きる、「ある人物」の一人称に根ざした思考が息づいている作品といえます。一方で、その人物が、自らの行動や言葉、思考によってどう問題を「超克」していくのか、という点はまだ伸びしろがありました。

「自分たち自身」を登場人物にした写真と短歌の映像作品

登場人物の視点で創作した小説

人物になりきって創作したブログ記事

人物の行く末を描く長編小説

一度のPBLで目指す成果を完璧に表せなくとも、そこからリフレクションを行い、次のPBLでそれを活かしていく。そうして年間4〜5本のPBLを回していくことで、生徒たちは自らの中にある問いや、問うためのプロセスを自ら開拓してゆきます。
独自科目としてのLiberal Artsが目指しているのは、そうした「世界のあらゆるところで問うことのできる人」の育成、ということもできます。(文・土屋 遥一朗:Liberal Arts担当)