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【高2国語】大和物語「姨捨」で実践する「過去・現代・未来」への問い~古典とAIが交差する探究学習~

高2C組、グループワークで発表をする様子

聖学院の国語科では、古典を過去の遺産としてではなく、「現代を生きる言葉」として捉え直す挑戦が続いています。今回は、国語科の島立教諭が担当した高校2年生の授業「大和物語・姨捨(おばすて)」に密着。聖学院の教育の核である「ICEモデル」に基づき、伝統的な文学と最新のAI技術(ChatGPT)を融合させた、創造性に溢れる3日間の授業レポートをお届けします。

【教員研修から生まれた、人生を豊かにする古典】
授業設計に先立ち、11月29日(土)放課後に聖学院と女子聖学院の教員11名が集まり、教科横断的に授業について語り合う「授業デザイン研究会」で、島立教諭はその哲学を発表しました。島立教諭が古典学習に託す願いは、「読み聞き書き話し考え、言葉を啓き、生徒の人生が少しでも前向きで豊かな、良きものになってほしい」という点に集約されます。
この授業は、聖学院独自の学習モデルであるICEモデル(I:知識、C:つながり・思考、E:表現・自己評価)を国語科で具現化したものです。例えば、「源氏物語を書いたのは誰か?」というIの問いから、「源氏物語が書かれなかったら歴史はどう変わったか?」というCの深い問いへ、そして「あなたがパロディ(擬古物語)を書く意義は?」というEの自己価値評価へと思考を広げます。当初、介護問題への接続を試みる予定でしたが、研究会での教員との議論を経て、より多角的な解釈を促す授業へと進化しました。完成していた授業を変更することは苦しい思いもあるが、研究会で語り合ったことでより良い授業になったと、島立教諭は話していました。

島立教諭の授業を体験

島立教諭が作成したICEモデルのマトリクスを使用

グループワークで意見交換

より良い学びを求めて、教員たちも真剣勝負

【1日目:色で分ける問題分析と現代への接続】
12月1日(月)の授業は『大和物語』の「姨捨」読解からスタート。男、男の妻、伯母という三者の関係性を把握した後、後世の『俊頼髄脳』にある同内容の文章を読み比べ、物語の相違点を考えます。単なる古典文学の読解に留まらず、現代の介護問題や「ヤングケアラー」の実態にも触れ、数百年後の現代社会と過去の物語をつなげました。
グループワークでは、登場人物が抱える問題を解決の可否を考慮せず、思いつくまま付箋に書き出す活動を展開しました。男の問題は「青」、妻の問題は「赤」、伯母の問題は「緑」という色分けをすることで、生徒は視覚的に問題を分類・整理し、客観的に三者の苦悩を捉えることができました。グループで意見をまとめ、クラス全体で共有することで、物語の解釈が一層深まりました。

大和物語の読解

付箋を使って登場人物に対する理解を深める

グループ内で仕分け作業

グループ代表が発表

【2・3日目:文法を土台とした創作とAIによる古文化】
3日(水)は、先生に続いて声に出して二つの物語を読み込み、既習の重要文法事項(「に・なり」の識別、「奉る」の識別など)を確認。知識の土台を固めた上で、「なぜ妻は伯母を嫌悪したのか」「男はなぜ山に捨てた伯母を迎えに行ったのか」といった深い問いに取り組みました。
そして授業のクライマックスは、ICEモデルの「E(表現)」を体現する創作活動です。生徒は指定された和歌の中から一つを選び、「和歌が詠まれた状況や人物を物語として説明する詞書(ことばがき)」を500字程度の現代語で創作しました。登場人物や場面、時代は自由という大胆な課題です。

さらに、8日(月)には、準備した500字の現代語の詞書を原稿用紙に書き写した後、なんと「ChatGPT」に入力して「古文化」してもらいました。古典文学の創作を、AIを駆使して行うという試みは、生徒に言葉の持つ普遍性と、時代によって変化する表現の違いを強く意識させました。
古文化された創作物語はロイロノートで提出・シェアされ、生徒たちは古典の文体を通して、自身の現代的な物語がどのように変換されるのかを学び合いました。島立教諭の授業は、古典という遠い世界を、現代の思考力、創造性、そして最新テクノロジーを駆使して学び、生徒の智を啓く刺激的な学習の実践です。

重要文法事項の確認

ペン先が走る音だけが響く時間

和歌から紡ぐ、彼だけの物語

自身が作った古文を振り返る

島立教諭の授業に密着し、古典がこれほどまでに現代的で、創造的な学びにつながることに感銘を受けました。生徒たちが古典文学を自己の価値観や社会問題に接続させ、「過去との対話」を通して自己の未来につながる言葉を獲得していく姿は、まさに聖学院が目指す教育の真髄だと感じました。今後も、このような生徒主体の深い学びが広がることを期待しています。