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【海外研修】タイ研修旅行レポート①「農業が未来の選択肢を増やす」

ルンアルン・プロジェクト「暁の家」にて

本校の代表的な海外研修のひとつであるタイ研修旅行は、今年は12月20日(水)の夜に旅立ちました。多くの貴重な実体験をし、12月31日(日)に帰国予定です。引率で生徒たちと一緒に過ごしている伊藤 豊教諭から現地レポートが届きましたので、以下ご紹介いたします。

ウインク練習中の山岳民族の少女と一緒に

タイ最北部チェンライ県。ミャンマー、ラオスと国境を接するこの地域には、山岳少数民族が暮らしています。さまざまな理由がありますが、彼らの中には国籍を持たない人が珍しくありません。国と国の狭間を生きる無国籍者の人生は、不自由そのものです。聖学院のタイ研修旅行は、山岳民や彼らを支えるリーダーたちとの交流をとおして、人の幸福とは何なのかと自問し、自分らしい社会貢献の仕方を見つける体験学習です。

パッキヤ村の民家から

今年の旅のテーマは「未来の選択肢を増やす」です。東京で暮らす生徒たちの意識の中で、農業は大切だと分かっていながらも少し遠いところに置かれています。身近なはずの農業を身近に感じてほしいという願いと、農業の体験が生徒たちの未来を広げるはずだという確信に基づいて旅を企画しました。今、その旅の真っ最中です。

中野穂積さんをリーダーとする「ルンアルン・プロジェクト」は、山岳民と共に有機、無農薬、多品種栽培に挑戦し成果を上げています。プロジェクトが力点を置くコーヒーは、今が収穫の盛りです。コーヒー畑は山頂付近の急斜面にありますが、収穫実習当日はあいにくの雨で、代わりに少し高度を下げた村でコーヒーの摘み取り作業を体験しました。十分に熟した実を選び、一粒一粒を指先で摘んでいきます。斜面での作業はきつく、摘んだ実はその日のうちに皮を剝き取らなければなりません。豆はその後半年ほどの手間をかけて焙煎前の生豆になります。実が生育する段階では、害虫や病気の被害から守るための努力がささげられます。大切に育てた豆を適切な価格で売る、その大切さを知りました。

収穫実習

実習後、私たちはアカ族、ラフ族、カレン族の村、パッキヤ村でホームステイをしました。農業従事者の暮らしと文化を体験することが主な目的です。パッキヤ村は住民自治の意識が高く、森林利用のルールを住民同士で決めて運用しています。村長は生徒の質問に応え「街に出て学んだ若者が村に帰って暮らしてゆけるように雇用を生み出したい」との展望を語りました。私たちのために3名の若者が村の取り組みを紹介してくれましたが、彼らに続く人たちが現れると期待をしています。

ルンアルン・プロジェクト「暁の家」を案内していただく

パッキヤ村長から村の取り組みを聞く

村に入ると言葉も習慣も風景も日本の都会と全く異なるのに、どこか懐かしい気持ちになります。生徒たちはすぐに村の子供たちと仲良くなり、日が暮れるまで遊び、民家で夕食をいただき、村の暮らしに溶け込んでゆきました。「ここに住みたいです!」というたくましい声も聞こえました。農業に関心を向けてゆく生徒たちの心に「原風景」が宿った一日になったことと思います。

パッキヤ村教会へ続く小道

アカ族の夕ご飯

ホストファミリーと感謝の握手

翌朝、村を後にした私たちが向かったのはタイコーヒーの大生産地ドイチャーン村です。海抜1000メートル超の農村は、タイ国内のコーヒーブームとパンデミックによる国内旅行需要をきっかけに観光客を集める場所に大きく変貌しました。私たちは「天空のカフェ」YAYO COFFEEを見学して来ました。今年五月、経営者のダヴィさんが来日した際に、本校で特別講義をしてくれたご縁があって今回の訪問となりました。

天空のカフェ YAYOコーヒー

YAYO COFFEEは、生産者が育てたコーヒーを精製し、選別し、自家焙煎をして消費者に届けています。山々を見晴らす最高のロケーションと広々としたカフェは、コーヒーの付加価値をいっそう高めています。私たちはここでコーヒーの実が多くの過程を経て1杯のコーヒーになるまでを見ることができました。大切な豆をおいしくドリップするコツを学び、生徒たちの関心は農業に少し近くなりました。

次回は山岳民の生徒寮「メーコック財団」からの報告をいたします。

季節によって焙煎の仕方が微妙に変わる

バリスタからコーヒードリップのコツを学ぶ